山田稔著「北園町九十三番地 天野忠さんのこと」読了

山田稔著「北園町九十三番地 天野忠さんのこと」読了
同じく京都に住む詩人の天野忠さんとの交友を静かに語っていく。
たまに自宅を訪ね、その時の様子や会話から話が広がっていく。天野さんが歩いて届けてくれた新刊からも話は広がる。
合間合間に引用される天野さんの詩がいい塩梅の流れを生み、途中登場する富士正晴さんの思い出が新たな、結構リズミカルな流れとなって合流する・・・。
そうして淡々と進んでいくだけなのに、なんと面白いんだろう、なんて深い読後感があるんだろうと驚きました。
いろいろと記憶に残る話が出てきましたが、なかでもひとつ天野さんのこんな会話がありました。

「(前略)庭でもそうですがな。いきなりずかずか来られる裸のつきあいはかなん。一歩さがって縁にひかえてもらって、しずかにみていてほしい。あくまで一定の距離をとってもらいたい、というのが京都人気質ですわ」と言い、
ちょっと間をおいて、
「庭は便所の窓からみるのがよろしいな。庭が油断してますさかいに」と結んだ。 」

これは1964.5ころに南禅寺西脇順三郎を囲む会があり、その時に天野さんが語った言葉で、それを大野新さんが記録していたものですが、この文を紹介した後で、天野さんは、「記帳な天野忠の言葉を口ぶりととみに記録しておいてくれた大野新に感謝する。」としめています。


実は恥ずかしながら山田稔初めて読みハマりました。新たに登る山を見つけた山男の様な嬉しさを感じます。
関西の本好き、古本仲間と付き合っていると山田稔さんの名前は何度も出てきて、一箱古本市でも結構山田さんの本が売れているんで気になっていたのですよ。東京の一箱ではなかなか山田さんの様な本は売れないんじゃないかなあ?
そのあたりに私は京都古本学派みたいなものを感じるのです。
いや、いい読書をさせていただきました。買い求めた「ら・むだ書店」さんありがとうございました。
さて次は何を読めばいいのでしょう?とツイッターで質問したところ、「そりゃ『天野さんの傘』でしょう」と朝霞書林さんから即答いただきました。
ら・むださんからは「『天野さんの傘』『マビヨン通りの店』等の「死者を立たす」物語を読んでから、パリものに行かれたらどうでしょうか。あるいは文芸文庫『残光mpなかで』からお気に入りを見つけるとか。」と丁寧な案内をいただきました。
1930年生まれの山田先生はご存命で新たな新刊を編集工房ノアから出されたばかりです。その新刊「こないだ」も気になります。
いやあ、これから忙しくなりそうです