吉村 昭著「回り灯篭」

回り灯篭
今年最初に読了したのは昨年亡くなった吉村昭のラスト随筆集「回り灯篭」でした。
最終的には自裁に近い形で、自宅治療中に亡くなられたのですが、この随筆集にはいたるところに死の影が潜んでいました。
特に、立原正秋日本経済新聞に「その年の冬」を連載中、食道癌に倒れ、その穴を埋めるべく胃カメラ開発の連載小説を書く話など、「作家は誰でも連載中の小説がその途中で絶筆となるのを恐れている」という吉村さんの言葉に胸をうたれました。

『客船は『武蔵』の姿を』という一編も素晴らしいものでした。読後、時間が経るごとにこの随筆が私の中で大きくなってきています。
吉村さんの戦史小説は「戦艦武蔵」からはじまり、またその「武蔵」こそ彼の代表作のひとつといわれています。
その「戦艦武蔵」を建造した三菱重工長崎造船所では2002年10月、建造途中の「ダイヤモンド・プインセス」が炎上しました。この火災は大きなニュースとなりテレビでも取り上げられたので覚えておられる方もおられると思いますが、吉村さんはその修復工事中にドックを訪れて見学されたのでした。船内見学後、ドックの高台からその全貌を目にして、戦艦武蔵とほぼ同じ大きさの「ダイヤモンド・プリンセス」の巨大さに改めて驚かされ、「武蔵」の乗組員が浮沈艦だと信じていたと聞いていたが、「たしかにこのような巨大なフネが沈むとは思えない。」と実感されるのでした。