先週末公開の黒沢清監督作品「叫 さけび」を観てきました。
この黒沢監督は今やメジャーの監督ですが、デビューは周防正行監督同様にアダルト映画で、その「神田川淫乱戦争」といういかがわしい映画を追いかけて遠い町まで見に行ったのは若き日の思い出です。

「叫 さけび」の主人公は黒沢映画の常連ともいえる役所広司です。
彼の役は刑事で、臨海地区で発生した水溜り(但し海水)に顔をつけて溺死させられた赤い服の女の殺人事件「F-18号」を追いかけはじめます。その現場近くの水たまりの中に、自分が持っているコートのボタンが沈んでいるのを発見、自宅に帰ってコートを確かめると、ボタンがひとつなくなっているのでした・・・
それ以来、彼は「どういう事だ!!」と悩みだし、それと共にその赤い服の女の亡霊が彼の部屋に現れるようになるのです。

その赤い服の女を演じる葉月里緒奈の顔の恐ろしさにゾクッとさせられます。
本当なのかそれとも心霊現象なのか地震が頻繁に起こりますが、それが東京らしく、そういえば今までこういった地震を描いた映画は少ないのではないか、と思いました。(もちろん、それは地震ではなく霊的現象なのかもしれませんが・・・)

静寂なシーンが多いこともあって、いろいろな「音」が耳に残っています。
死体置場の死者のうえにある電灯がギー、ギーと延々とゆれる音・・・廃屋の中に入っていくと浸水しており、そこを歩く音・・・それはアンドレイ・タルコフスキーの映画を思い起こさせるものでした。

葉月里緒奈の不気味さは際だっていたものの、他はそれ程怖くはなく、ホラー映画として成功しているのかどうか、ジャパニーズ・ホラーをほとんど見ていない私には判定しかねます。
しかしながら、ストーリーではなく、切り取られた風景の連続として観た場合、この映画のそれぞれのシーンには間違いなくクロサワの刻印が焼きつけられています。
奥行きの深い、深度のある映像に身をゆだねるべき映画と言えるでしょう。

クロサワの敬愛するゴダールはこの映画を何と評するでしょうかね。

☆☆☆★