ジャ・ジャンクー監督作品「四川のうた」

ヴェネチア映画祭金獅子賞グランプリを受賞した前作「長江哀歌」拝見したところ素晴らしい出来で、「四川のうた」も是非とも観たいと思いながら、東京で観そびれてしまい、横浜まで追い掛けてきたのでした。場末感漂う黄金町で観たことも運命だったのかもしれません。


四川省成都にある国営420工場。空軍関連の軍需工場で従業員3万人その家族10万人がひとつの町となって生活していた。ところがこの国営工場が民間企業に売却され、マンションやファッションビルに建て替えられることが決定する。
工場は郊外に移転するのだが、その10万人が1958年から生活してきた場所が中国から消えてしまうのだ。たくさんの人々の喜怒哀楽ない交ぜになった思い出の地が時代の流れに飲まれて喪失してしまう。国家によって造られた街が同じ国家によって壊されていく。多くの人々の無念の思いなど全く考慮されずに…
この映画は何人もの従業員にインタビューで構成されており、その間に俳優が従業員を演じてインタビューに答えるシーンを挿入している。監督が多くのインタビューをした中で、複数の物語を凝縮するには俳優を使った方が効果的と判断したのだ。その俳優のひとりがポスターの女優ジョアン・チェン。「ラストエンペラー」や「天と地」それにTV版「ツィン・ピークス」にも出演している中国を代表する女優です。
多用されるフェイドイン・フェイドアウト・・・中には小津安二郎の「東京物語」で原節子が台所でひとりお茶漬けを食べるシーンを彷彿とさせるシーンもありました。居間から台所を狙ったシーンで、中年の女が台所でひとり麺を食べていすシーンです。
学生時代の思い出で山口百恵の「赤い疑惑」のことが語られ、その日本語の主題歌が大きく流れ出したのにも驚かされました。
元々この工場は中国北部の瀋陽にあり、58年に移転、多くの従業員が四川に引っ越してきたんですね。夕陽が落ちようとするバスの中で語る女性の話は生き別れになった祖父母と会いたがっていた母が、自分と一緒に瀋陽に戻り再会した話でした。
語りだせばキリがない程に印象的なシーンが多い映画でした。また、振り返ってみれば日本も、いや自分自身のまわりでも同じような話がおこっているんですよね。
体調が悪いにもかかわらず、画面から目を離すことが出来ませんでした。これは傑作です。
これからもジャ・ジャンクー監督作品を観続けることになるでしょう。


■是非読んで欲しいジャ・ジャンクー監督インタヴューです。
http://www.outsideintokyo.jp/j/interview/jiazhangke/index.html






帰りの京急黄金町駅・・・寂しい駅でした。