佐野真一著「新忘れられた日本人」


非常に興味深い本を読了しました。

新忘れられた日本人

新忘れられた日本人

ノンフィクション・ライターの佐野真一氏は正力松太郎を描いた「巨怪伝」やダイエー中内功の「カリスマ」。他にも「東電OL殺人事件」「甘粕正彦 乱心の曠野」など興味深い著作が多く気になっている作家でした。
この「新忘れられた日本人」は民族学者の巨人宮本常一の著作「忘れられた日本人」にならって、歴史の隙間の中で忘れられていった人々、著者が取材した「主人公」の周辺にいた人物にスポットを当てた連作です。
無着成恭の「山びこ学校」の作文を書いた人々のその後や、それを世に出した名も忘れられたジャーナリスト達、ダイエーを立上げた中内功の盟友ウエテルこと上田照雄やその周辺、ロイヤルホスト江頭匡一、滋賀の特殊浴場協会会長や華族出身のスケベ椅子開発者・・・
いろいろな世界・人物が取上げられていますが、なかでも面白かったのは・・・いくつもあるんですが、そのひとつは石原慎太郎裕次郎兄弟の父潔のことですかね。
彼は大学卒ではなく、山下汽船(現・商船三井)の店童(てんどう)出身で、一般商家で言うところの丁稚上りだったのです。門司出張所・台湾出張所・神戸本店勤務を経て、東京支店勤務となったものの、会社の金で江ノ島の料亭で豪遊、それがバレて、小樽に飛ばされたんだそうです。
また慎太郎も学生時代に父潔が亡くなったため、苦学生で「太陽の季節」や「処刑の部屋」などの体験は自らの体験ではなく、裕次郎に紹介されたネタ元の青年から聞いたものだったのですね。全く表に出ることのない日本版ミニ・ケネディ一家の過去であります。
まだまだ面白い話が一杯ありましたが、もうひとつだけ出すとすれば、大読売を作り上げた正力松太郎!!
彼は警視庁にいたんですね。摂政暗殺を謀った虎ノ門事件の責任をとらされ、辞職しマスコミの世界に入ったのでした。巨人軍を創設し、昭和天皇の天覧試合を出来たのがなにより感慨深かったようです。昭和天皇こそ虎ノ門事件で狙われた摂政その人でしたからね。その関連で驚いたのは「永遠に不滅」な巨人軍が日本初のプロ野球チームではなかったという話です!!
なんと大正時代に既にプロチームが存在していたのでした。