手嶋泰伸著「海軍将校たちの太平洋戦争」

陸軍の政治的暴走はあったが海軍が反対すれば太平洋戦争はなかった。悪しき官僚主義で海軍は開戦を決意し、開戦後は「大艦巨砲主義」「速戦即決主義」「武人的ロマンエィシズム」で戦略を過ち、「士気の喪失への恐れ」で敗戦の決断が遅れたと分析する。
ここで云う官僚主義とは自らの職分にこだわる、いわばセクショナリズムだ。よく言われる海軍は政治に立ち入らずもそうだ。アメリカて戦っても勝ち目がないことが判っていても、戦うことが本分であり、決定した政策がそうであれば反対せずに職務として戦う。敗戦が濃厚になっても職務として闘い続ける。
敗戦が濃厚であろうと何とか勝機をつかもうとして、当時は人権尊重やら人命重視の考え方は元々なかったから安易に特攻作戦を採用してしまう。そもそも「速戦即決主義」で挑むのでミッドウェイ以降急速にベテランパイロットがいなくなってしまい、精度の劣る新人パイロットで戦うしかなくなったのも、その採用の理由のひとつとなる。新人パイロットが出撃すれば撃ち落とされるのは明らか、なれば特攻に賭けようとなるのである。
海軍の良識派とされる米内光政もこの本では随分と分が悪い。

本の内容は太平洋戦争時の日本海軍の分析ながら、その官僚システムは戦前の継続で温存されており、現在を見直す一助と出来る。たとえば原子力政策など同じ轍を進んでいるのではなかろうか。
ひょっとしたら聖断がないとやめられないのかもしれない。