周防正行監督「それでもボクはやっていない」


周防正行監督久々の新作「それでもボクはやっていない」を初日に観てきました。
「変態家族 兄貴の嫁さん」というデビュー作を大阪吹田だかのピンク映画館まで見に行ったのは今となってはいい思い出ですが、デビュー当時から気にかけていた監督は「ファンシーダンス」「シコふんじゃった」を経て「Shall we ダンス?」でブレークしました。その監督の11年振りの新作を観に行かない訳にはいきませんよね。
主演は硫黄島で戦っていた元憲兵隊清水役の加瀬亮です。この加瀬君は既に40本の映画に出ているとのことですが、監督が味付けしやすそうな、色々な役回りを演じられそうな、いかにも映画向きの役者ですね。これからの日本映画を背負ってくれる雰囲気濃厚です。弁護士に役所広司瀬戸朝香、母親にもたいまさこ、友人に山本耕史、元恋人に鈴木蘭々・・・その他助演陣も多士済々でその陣容を見ただけでも期待が高まります。
主人公の金子徹平が女子高校生から「痴漢したでしょ」と手を掴まれるところから映画ははじまります。監督が好きな小津風のロウアングルが多く、「やっているな」と時にニヤリとしながら観ていました。
しかし、この映画の主役は金子ではなく、逮捕から拘留、検事取調べを経て裁判に至る「制度」そのものであることに気付かされ、(不条理なことの連続でもあり、)観ているこちらも不安な気持になってきました。
周防監督の師匠筋にあたる伊丹十三の得意としたハウツー物にすれば面白味も倍増するでしょうし、ヒッチコック調の巻き込まれ型のミステリーとして描けばもっとサスペンスが生まれるでしょうが、そうはせず淡々と時は過ぎていくのです。
私の不安感は絶頂に達し、会社の仕事での問題事項を反芻しだした程です。「あれはどうだったか・・・」「あれでいいのか・・・」
スクリーンでは公判がどんどん進み、第12回公判で判決となり、映画は終了しました。
なんと重く考えさせられる映画か・・・それも仕事のことまでも。(苦笑)
ここまで重くさせられたのは間違いなく傑作の証拠だと思います。

私の好きな俳優のひとり小日向文世が裁判長を、北見敏之が検事を共に不気味に演じています。それだけでも一見の価値があるでしょう。

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