西川美和監督「ディア・ドクター」


山あいにある村から診療所の医者伊野(笑福亭鶴瓶)が失踪する。村は大騒ぎになり、警察も捜査に乗り出した。映画はその騒ぎ以降と、東京の医大から研修医相馬(瑛太)が来てからの往診等の日々が交互に描かれていく。
患者の一人に鳥飼かづ子(八千草薫)がおり、胃痛を訴えて胃カメラと細胞検をした結果は「胃がん」・・・しかし、東京に住む医者である娘(井川遥)には内緒にして欲しいとの訴えから、かづ子自身にも「胃がん」である告知は避けて毎晩のように様子を見に家を訪問するようになる伊野。 また、研修医相馬もそんな伊野に惹かれていくのだった。
失踪後、伊野がニセ医者であることも判明し、警察は相馬等にも聴取を開始する・・・



スクリーンとの距離がありすぎて、映画に没頭出来なかったのが残念でしたが、この映画自体も実は「距離感」を重要なモチーフにしている映画でありました。思い起こさせるのはビクトル・エリセの「エル・スール 南へ」・・・あの映画と通じるものでした。
伊野が鳥飼かづ子宅から帰る時のお互いが笑顔で手を振り合う姿。田んぼの中のかづ子と声を掛ける伊野との距離感の素晴らしさ!!
こういう距離感は映画でないと、それも出来れば映画館で観なくては感じられないものかも知れません。
ラストに賛否両論がありますが、まあ主役の鶴瓶師ならではという事でいいんじゃないかな。

この映画は西川監督が見たひとつの記事から発想を得たそうです。
「四国の山奥で白タクをしていた運転手が逮捕されて、お年寄りが病院に通えなくなってしまった」
違法なタクシーでも、それがなければ村がなりたたない、また正式なタクシーが山奥に出来る訳がない、ということですね。その白タクの運転手をニセ医者に置き換えてみたところからシナリオ作りは始まったのでしょう。鶴瓶師という伊野役にピッタリな配役が決った時点で方向性も定まったのでしょうねえ。伊野役を彼以外で想像するのはむずかしいくらいにニンに合い過ぎていますからな。
配役でいえば、八千草薫さんは素晴らしいですね。あのお歳で「美しい!!」と思えるんですから大したものです。娘役の井川遥さんの美貌を食ってしまう程でありました。あともうひとつ、相馬役の瑛太さんですが、最近テレビのドラマでも研修医をやられていたりするんで、自分自身の中ではもうひとつフィットしていない感じでした。もっとも、5年程して見直せばそういう見方はなくなっているんでしょうね。映画も人間も熟成が肝心ということですか・・・
是非、一度ご覧ください♪