ひとり旅

ひとり旅

今日も降ったりやんだりの天候が続いています。こういった長雨で地熱が冷やされ涼しくなるかと思いきや、むしむし感はあいかわらずです。いやになってきますね。
昨日は長いザレ文をしたためてしまいましたので、本日はこの本の紹介と致します。

著書最後のエッセイ集です。それも死後に夫人の津島節子さんがまとめられ、巻頭にその旨を記載した文章を掲載されています。その文章も愛する夫を失った悲しみがあふれていますが、それよりも吉村昭の最期に書かれたエッセイが全て並んでおり、その為、内容の重複が非常に多く、かえってその事が悲しみをさそいます。
「たとえ内容が重複していても全て掲載したい」という津島節子の思いが伝わってくるのです。
内容的には数限りなく長崎を取材旅行で訪れた話や、「彰義隊」「天狗騒乱」の取材旅行の話などです。長崎には取材旅行で百回以上も訪ねているのに、グラバー亭さえ行ったことがないというから驚かされます。そこにも吉村さんの生真面目さが感じられておかしいですね。「彰義隊」で主人公となった上野寛永寺山主の輪王寺宮能久親王の子孫の方が伊勢神宮の大宮司となられており、本当は連載終了後に夫婦で伊勢神宮に挨拶に行くことになっていたことが巻頭エッセイに書かれていました。
最後に小沢昭一との対談がおさめられており、この軽い対談で終わることが、このエッセイ集の救いとなっています。
本を読み、その作者が亡くなったことをこれほど痛切に感じたことはいままでありませんでした。エッセイ集として見れば失敗かもしれず、もしかすればノンフィクションのジャンルに近いものなのかも知れません。