川村俊一著「虫に追われて」

虫に追われて―昆虫標本商の打ち明け話

虫に追われて―昆虫標本商の打ち明け話

冒頭近くにある「私は『昆虫で食べて』生きたかった。『昆虫を食べて生きる』のではない」という文章に京王井の頭線内で噴き出してしまいました。昆虫商として生活している著者の体験談であるが、なかでも約130ページにおよぶ第2章の「昆虫家(むしや)の『インド獄中記』」が読ませます。
著者は昆虫標本商兼蝶のコレクターであり、珍しい蝶を求めてインドのダージリンを訪れます。たとえば、近くのブータンの渓谷には世界で大英博物館に5頭の標本しかない「ブータンシボリアゲハ」がいるし、ダージリン自体にも「タカネクジャクアゲハ」という豪華で美しく且つ珍しい蝶がいる…  (珍しい、といえば蝶の数え方を「頭」と書きましたが、これは虫屋の常識なんです。「象1頭に5頭のノミがついていた」というふうに言うワケである。それはともかく・・・)
そういった蝶を求めて8年間、ダージリンに通っていた著者は、さあ、明日から新婚旅行を兼ねたインド旅行、新妻がやってくるというその朝、突然、森林警察にホテルの部屋に踏み込まれて逮捕されてしまいます。アトでわかったことは政権が変わって自然保護が厳しくなっていたんですなあ・・・
そして、英語も通じにくい中、いつまで続くともわからぬ拘留生活が彼を待ち受けていたのでした。獣臭くジメジメとした牢獄、辛くて食べられない食事・・・ああ・・・
いやあ、面白かったなあ・・・一気に読んでしまいました。
図書館で予約して借りたのですが(そう、偶然にも「ハチ突然死」と共に手元にきたんですが)この本は手元に置きたい、近いうちにamazonで注文しようと思います。
新妻の獅子奮迅の活躍で、なんとか保釈を勝ち取った彼が出会う人々も魅力的です。ネパール系の弁護士ソナム・クンチュク・テンジン氏は「ヒマラヤの男」の著者テンジン・ノルゲイの孫・・・テンジン・ノルゲイとはチベット人シェルパで、かのエドモンド・ヒラリーとともに1953年にエベレストの人類初登頂を達成した人物、またホテルにやってきた老紳士ハラー教授、彼こそあの「セブン・イヤーズ・チベット」のハインリッヒ・ハラー氏なのでした。(映画でブラピが演じていましたね。)彼の著書は他に「白い蜘蛛」やパプアニューギニア紀行の「石器時代への旅」等魅力的なものがあるとのこと。是非読んでみたいなあ・・・
著者は無罪を勝ち取れるのか? ビザ期限の失効も迫り裁判が長引けば不法滞在で逮捕されてしまいます。また重要な証拠書類を故意に隠されてしまい、再度日本から送ってもらっていますがなかなか届かない!! 残すは後数日、証拠品(彼の名の入った図鑑や論文)は届くのか、そして無罪は勝ち取れるのか、無事出国出来るのか!!! 手に汗握る展開は将に事実は小説より奇なり!!