是枝裕和監督作品「歩いても 歩いても」

今日から公開される原田真人監督作品「クライマーズ・ハイ」を見に行こうと思いましたが、時間があいません。残念!!
原田監督の前作「突入せよ!! あさま山荘事件」や「金融腐食列島」など見ごたえがあり、さぞ素晴らしい映画に仕上がっていることでしょうね。
携帯で検索したところ、ロードショウの一番上に書かれていたのが、是枝裕和監督作品「歩いても 歩いても」でした。
いい映画だという話も聴いていましたので、有楽町のよみうり会館最上階のシネカノンの闇に身を沈めました。
(このシネカノンって、いい映画館ですねえ!! こんないい椅子は初めてです。ただ、ほぼ満席で前から2列目の端の方しか席がなくって観づらかったのには参りましたが・・・)




http://www.aruitemo.com/index.html



いやあ、いい映画でした。エンドタイトルが終わってからも座ったまま、映画について話しておられる方が多かったのがとても印象的でした。
映画はとある夏の1日の話でした。(厳密にいえば2日間ですかね)

開業医を引退した父(原田芳雄)と母(樹木希林)のもとに、次男(阿部寛)一家と長女(YOU)一家がやってきます。その日は15年前に自宅近くの海で溺れている子供を助けたものの、自らの命を落としてしまった長男の命日だったのでした。
既に15年経っているのですが、会話の端々にその長男の名前が出てきます。
失業中の次男は妻(夏川結衣)とその連れ子(田中祥平)を連れて久し振りの帰省のようで、父とのギクシャクした関係が今も昔も変わらず、又それが義理の息子との関係と相似しているのですね。

長女一家は一足先に帰り、次男一家のみが泊まって帰ることになりました。
次男一家は母と高台にある長男のお墓参りも済ませ、静かな夜をむかえます・・・。

翌日、次男一家もバスで帰り、また老夫婦だけの日常が戻ってくるのでした。
映画はバスを見送り、長いコンクリートの階段を登っていく老夫婦の後ろ姿にナレーションがかぶさり、10年後の次男一家の映像の後、エンドタイトルとなります。
なんでもない日常のひとコマをとらえながら、その生活の中に確実に残っている長男事故死の悔恨の思いをあぶりだしています。それは孫達や長女の夫(高橋和也)が騒げば騒ぐ程に、その大騒ぎとシンメトリーをなすように、浮かびあがってくるのです。静かな、笑わず王子とよばれている次男の息子はまるで「彼岸」との橋渡しのような存在とも思えるのでした。
繰り返し出てくる暗い玄関だけの無人のショットが大変印象的です。
私には小津映画の平成版という思いが強く残りました。小津の映画で近いのはやはり「麦秋」なのでしょうか・・・

樹木希林とYOUが素晴らしい!! いや、私はそれ以上に夏川結衣と田中祥平の素晴らしさに息を飲みました!!
そうそう、ゴンチチの音楽も身に沁みてよかったです。
是非、映画館へ足を運んでください。
東京では有楽町のシネカノン新宿武蔵野館、大阪では梅田ガーデンシネマ、長野では松本エンギザでロードショウ中です♪


P.S. ただ、私は老夫婦がバスを見送り、コンクリートの階段をえっちらおっちらと登っていくところで終わりにしてよかったんじゃないか、という気がしています。
そこにかぶさるナレーションは監督にとってはなくてはならないもので、それに続く次男一家のシーンは未来への希望なのでしょうが・・・
いや、未来への希望とはウラハラに、そのシーンの向う側にはあの家族、あの家自体もう存在していないことにゾッとさせられたのは私だけでしょうか?