清水 宏監督作品「ありがたうさん」

のんびりとした日本映画をご紹介致しましょう
古いですよ― 1936年2月公開、昭和でいえば11年・・・
若干、左寄りの言い方でいえば15年戦争、その前哨戦ともいえる、いわゆる日中戦争中ではありますが、未だ国内は平和でありました。
そんな時代に、小津安二郎島津保次郎の両監督と並び称される名匠清水宏監督の作品です。
当然、モノクロ・・・

主人公はバスの運転手、道を除けてくれた人々に「ありがとぉ〜」と呼びかけることから、親しみをこめて「ありがとうさん」と呼ばれています。演じるのは若き日の上原謙加山雄三のお父さんですね。


(運転手が上原謙、その後ろが水商売の桑野道子、横が売られる娘さん)

バスは伊豆の山間部を抜けて伊東まで、ところどころで休憩しながら乗客を運びます。
バスの中には水商売の女や、娘を都会に売る婆さんとその娘、付け髭でいばる保険の外交員等が乗り合わせています。
途中で手をあげてバスを止める人々、近くの祝言に呼ばれていく人や葬式に行く人・・・葬式に行く人は祝言に行く人が「ゲンが悪いので降りようか」と話しているのを聞いて、バスを降りて歩き出します。一体何キロ歩くんでしょうか?
手をあげて後方から来る娘達に伝言を頼む旅芸人の男もいます。近くの温泉に団体が入ったから、そちらに行くことを伝えてくれと・・・
途中には朝鮮労働者も出てきます。朝鮮の娘さんがこの地でなくなったお父さんのお墓をよろしくお願いします、と「ありがたうさん」に頼んでいきます。彼等はバスに乗ることなく、また遠い工事現場へ向かうのでした。
と思えば、バスの行く手をさえぎって道のど真ん中、人力車のうえで口上を始める東京女大歌舞伎一座なんていうのも登場します。
いまや失われた素朴で美しい風景も一見の価値があります。
「ありがたうさん」は新しい車を買って独立する夢を水商売の女に語るのですが、その女から「その金で都会に売られる娘さんを救っておやりよ。嫁にしてやりなよ」と言われ、その娘さんを連れて伊東から元来た道を引き返していくのでした。

いやあ、驚くべきロードムービー・・・WEBで検索しているとブニュエルの「昇天岬」の日本版だ!!という意見の人もいましたよ。
是非一度ご覧ください♪

有りがたうさん [DVD]

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