久し振りに書架から新潮文庫志賀直哉短編集「灰色の月・万暦赤絵」を手にとりました。
昭和43年初版の未だ直哉が生きていた時代に発行された文庫で、カバーには「小説の神様」よろしく老年の直哉のモノクロポートレートが印刷されています。



冒頭の一遍「豊年虫」が気になっていたのです。
戸倉温泉で長編を書き上げた筆者が上田見物に訪れ、俥屋に遊郭街や繁華街を案内させ、そばを食って戻るという、まあ他愛のない内容ですが、その全編にわたっておびただしいカゲロウの群れが飛んでいるのです。外灯を覆うように飛び回り、やがて、その死骸が雪のように路面に積もっていくそのカゲロウを土地では「豊年虫」と呼び、この虫が多く飛んだ年は豊作になると言い伝えられているのです。
筆者(直哉)は戻った旅館でその1匹を捕まえて、その姿を凝視します。

『なおよく見ていると、これはまたどうしたことか、虫の胴中から下が、まるで糞かなんぞのようにぽたりと腐れて畳へ落ちて了った。なるほど生きているうちからこの虫の身体は腐れていくのかも知れぬと思った。』

さて、
昨年10月、上田に行った際、「上田街歩き」というガイドマップを入手し、折に触れて眺めていたのですが、その隅の方に『うきよ橋 −志賀直哉豊年虫」に登場する遊郭への道−』という記載を見つけ、そうか、あの「豊年虫」の舞台は上田だったんだ!!と驚きの発見をしたのでした。



しかし、上田にしても戸倉温泉にしても「豊年虫」大量発生などという季節のニュースを聞いたこともなく、この直哉が見た不気味な風景も農薬散布などによりなくなったでしょうか・・・。
そんな事を考えていると不意に、子供の頃の記憶がよみがえりました。岐阜の田舎に行くと、夜毎に縁の下から現れた大量のカマドウマに庭中を埋め尽くされていたものです。
豊年虫」も「カマドウマ」もどこへ行ってしまったのでしょうか・・・。


「うきよ橋」に行ってきました。↓

http://d.hatena.ne.jp/sampodow/20070218