今日は風邪を治すことに努め、部屋の片付けや読書をしつつ静養しました。外出は夕食を食べに近くのお蕎麦屋さんに行っただけでした。
そんな中で読了したのがこの一冊です。近藤史恵著「サクリファイス



サクリファイス

サクリファイス


この間、松本へ出張した際、チャーリーがいつも赤ら顔ながら、更に興奮した様に赤くなって、話しかけてきました。
サクリファイス!! サクリファイス読みましたか?」
サクリファイス? 犠牲?」と聞き返しながら、私は若い頃に熱中したソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーの遺作「サクリファイス」やその映画の話も出てくる柳田邦男の「犠牲-サクリファイス-」を思い出していました。
柳田邦男の著書は若くして自死した息子を扱ったノンフィクションでした。タルコフスキーの映画を敬愛していた息子が、亡くなったその日に偶然にもBSでタルコフスキーの「サクリファイス」が放映され、驚きながら悲しみを堪えてその映画を見続けるというシーンが印象に残っています。

チャーリーが言うには「自転車のロードレース」の話だそうで、借りることにしたのでした。チャーリーは私以上の読書家で、彼が推薦する以上、面白くないハズがありません。彼は「ボクは自転車をやるので、それで余計に面白いのかもしれませんが」と謙遜していましたが・・・
面白かったよ!! チャーリー!!



物語は大阪に本拠地を置くプロの自転車ロードレースチーム「チーム・オッジ」を舞台に展開します。主人公は若手有望株の白石誓、通称チカです。高校時代には陸上の中距離スプリンターでインターハイで1位にもなったのですが、彼は陸上をやめて自転車の世界に転向してきたのでした。ロードレースではチームのエースを勝たせる為に先行して風を切り引っ張っていくアシストという存在がいることをこの本で知りました。そういえば、マラソンなんかでもいいタイムを出す為に併走するアシストがいますよね。
1位を目指す意欲の薄くなったチカは、そのアシストこそ自分の天職ではないかと感じはじめていました。風の抵抗を受けつつ走り切り、ここぞという処でエースが自分を追い抜いていく・・・まるで戦艦から飛行機を飛び出させるカタパルトの様な存在・・・。
チームのエースは石尾豪、そしてチカより1歳若い伊庭和美が次世代のエースとして頭角を現そうとしていました。伊庭は「アシスト」を天職と感じているチカに大きな違和感を感じています。そしてある休日、伊庭はチカを練習に暗峠(くらがりとうげ)まで誘うのでした・・・。
「ツールド・ジャポン」の連戦や「リエージュルクセンブルク」の戦いに、チームエース石尾の「エースの座を狙う者には容赦をしない」という暗い噂や、スペインチームが日本選手をスカウトしようとしている噂などと共に、チカが陸上を捨てた原因ともいえる初野香乃もからんで物語は進んでいきます。
ミステリーだけに後半に思いもかけない事故が起こり、その中にチカも巻き込まれることになる訳ですが、読後には、そんな事件はいらなかったんじゃないか、このレースを中心とした物語で十分ではなかったかと、思わせる爽快感が残りました。
自転車のロードレースも面白そうですね。今度CSででも観てみようと思います。



前半が関西を舞台にしていることも、この本に素直に入っていけた一因じゃないでしょうか。勝尾寺暗峠なんて地名が出てくるとやはりうれしくなります。それにしても暗峠を自転車で走るのはキツイでしょうね。私も随分前に徒歩で奈良側から峠越えしたことがありましたが、特に大阪側は爪先立ちで降りる感じで怖かったことを思いだします。
上方落語の「東の旅」では「大阪はなれて、はや玉造、笠を買うなら深江が名所、『暗がりと言えども明石の沖までも』と芭蕉の句碑がございます、暗峠を越えますと大和の国でございます」と簡単に越えてしまいますが、なんとも恐ろしい峠道ですよ!!
ちょうど、頂上部分は平坦な道が続いていて、そこだけ石畳になっていました。こう書いていて、だんだんと思い出してきましたよ。あの日この石畳に差し掛かった頃に大雨となりバス停だったか地蔵堂だったかで雨宿りしたなあ・・・ 私はとても大阪側から登れないと思います。それ程に大阪側の枚岡神社までの道はキツいのです。途中に「弘法の水」という湧き水もおましたなあ・・・







柳田邦男「犠牲-サクリファイス」とアンドレイ・タルコフスキーの「サクリファイス」も紹介しておきます。
犠牲(サクリファイス)―わが息子・脳死の11日 (文春文庫)  サクリファイス [DVD]

チャーリーの初めて登場した時の「sampodowの日記」は・・・
http://d.hatena.ne.jp/sampodow/20070201